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ラ・フォル・ジュルネ(熱狂の日)2013

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今年のゴールデンウィークは本当に天気が良く、清々しい毎日でした。私は友人に誘われて(初めて)クラシック音楽の祭典「ラ・フォル・ジュルネ(熱狂の日)」に行き、(3日間!)東京国際フォーラムに通いました。クラシック音楽のファンは、身近にあまりいなかったので、このようなイベントに本当に人が集まるものなのかどうか、実は軽く考えていたのです。
ところが行ってみたら大変でした。東京国際フォーラムは毎日大混雑で、会場周辺や丸の内でも多くの出店やイベントや無料コンサートがあり、一体どこからこんなに人が集まって来たのだろうかと思うほどの盛況ぶり。この音楽祭は、日本では9年目と成り、東京国際フォーラム内の全ホールとよみうりホールを3日間使用して、(朝から夜の11時頃まで)クラシック音楽のコンサートがたくさん開かれます(全部で135個の公演です)。発祥はフランスで、1995年から始まり、リーマンショック以降は規模が縮小されたそうですが、それでもこの盛り上がりです。百聞は一見にしかず。誘ってくれた友人に感謝です。
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東京国際フォーラムで一番大きいホール(A)は、5000人を収容します(上の写真)。その会場で(3日間で)延べ18回の公演があり、そのほぼ全てが満席状態と言う、クラシック音楽界の現状から考えると奇跡の様なことが起きていました。5000人×18回×(平均)2000円として、(Aホールだけで)1.8億円の入場料収入です。その他のホール(6カ所)もほぼ満席でしたので、それを加えたら相当なものです。でも出演している演奏家たちも、みんな有名な方々ばかりでしたので、出演料や会場費、広告宣伝等のコストもかなり掛かるでしょう。いろいろな企業からの協賛も集めて、このプロジェクトは運営されているようです。
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一回の公演時間が45分で、入場料が(通常のコンサートよりも)とても安い。聞きたい曲や演奏家を自由に選べる。空いた時間も周辺のイベント会場や出店で楽しむ(上の写真)。東京丸の内で、ショッピングも出来る。いつから来ても良いし、最後までいても良い。同じ趣味の人達が集まって、休日を一緒に過すような感じです。何となく、どこかのヨーロッパの都市に来たような錯覚すら覚えます。コーポラティブハウスの持っている空気感(コミュニティ)とも似ています。
基本的に「斜陽」と言われているクラシック音楽界ですが、このように、永遠と続く音楽自体の生命力に火を付けることで、新しい復興が起こせるのだと(驚きと共に)認識することができました。要は「アイデア」なのだと。3日間を過しながら、自分自身の仕事に対するヒントも得られたように思います。良きものは、やり方を変えれば、火が付く。これは大いなる収穫です。
さて、演奏会自体の感想です。今回のテーマは「パリ、至福の時」で、フランス音楽が中心です。私たちは、135個のコンサートの中から10個(だけ)選びました。その中で特に印象に残ったのは。。。
マスネ:タイスの瞑想曲(カントロフ指揮&デュメイのバイオリン)
ショーソン:詩曲(カントロフ指揮&デュメイのバイオリン)
ラヴェル:マ・メール・ロワ(ケフェレックと仲道郁代の連弾)
ロドリーゴ:ある貴紳のための幻想曲(カントロフ指揮&村治佳織のギター)
ラヴェル:ピアノ協奏曲(カルイ指揮&小山実稚恵のピアノ)
フランク:ヴァイオリン・ソナタ(デュメイのバイオリン)
フォーレ:レクイエム(コルボ指揮&ローザンヌ声楽アンサンブル)
ラヴェル:ボレロ(カルイ指揮)
オーケストラは、ポーランドの「シンフォニア・ヴァルソヴィア」とパリの「ラムルー管弦楽団」で、その両方ともとても豊潤で柔らかい音響で、本当に素晴らしかった。また初めて聞く曲も多く、そのような意味でも、安い入場料で試しに聴いてみるというシステムは、とても良いと思いました。音楽との新たな出会いが生まれます。
上記の演奏の中で、特に感動的だったのは、最終日のフォーレ(レクイエム)です。コルボ指揮のレクイエムは(名盤中の名盤で)、随分昔からCDを何度も聴いていましたが、遂に今回初めて生で聴くことが出来ました。会場が5000人収容のホールAでしたので、本当はもっと小さな会場の方が良かったのかもしれませんが、そんなことは全く関係なく、始めから終りまで、ガタガタと感動の震えを感じながら、真剣に聞き入ることが出来ました。とにかく、「素晴らしい」の一言です。コルボさんも80歳くらいですが、とても素敵でした。やはりCDと本物は、決定的に何かが違います。風景の写真を見るのと、そこに実際に行くのとの違いと同じかもしれません。フォーレのレクイエムは、静かに死者を楽園に導く穏やかで瞑想的な音楽です。その神聖さに酔いしれました。
また、最後の打ち上げ的な演奏会でのボレロは、本当に凄かった。実は前日の別の指揮者によるボレロを聴いた時は、さほど感動しなかったのに、この日の演奏では、徐々に力強く、最後は大音響と化すパワーに圧倒されました。5000人満席の会場で、3日間の大トリの花火ですから、そういう意味での力も加わったのでしょう。オーケストラの演奏者一人ひとりの音量がどんどん力強く成って、会場にも一体感が生まれました。3日間だけの出会い(コミュニティ)の最後に、聴衆も演奏者も一緒に成って、最後の音を鳴らし切る。そして万雷の拍手。終幕の曲は、メキシコの女性カスタネット奏者とのコラボレーションで、これも大いに盛り上がりました。カスタネット奏者は、75歳なのに物凄いエネルギッシュ。そのパワーのおかげで、終演後も2度のアンコールと繰り返されるカーテンコールで、最後は(すでに引き上げた)オーケストラのメンバーまでがステージに戻ってきて、みんなに「さようなら」の挨拶。
結局、「コミュニティ力」だったのです。クラシック音楽で結ばれたコミュニティが、このプロジェクト・アイデアの真髄だったのでしょう。日本人はそういう力を持っていると思います。あの3.11の時もそうでした。5000人の会場で、小さな子どもがいる中で、クラシックが初めての人も多い中で、静かに音楽に耳を傾けられる力。きっと遥々東京まで来た演奏家の方々も、日本の素晴らしさを体感できたのではないでしょうか。2日目の演奏会では、(終演後に)オーケストラの中の一人の女性演奏者が泣いていました。これも音楽の力、日本の力だと思います。
このようにして、今年のゴールデンウィークは終わりました。特に遠出もせず、東京の中で時間を過しましたが、とても充実した経験ができました。あらためて友人に感謝です。音楽の素晴らしさは、「今」という瞬間にあると思いました。今鳴らした音は、数秒後には消えている。過去も未来も無い。「今」という瞬間の芸術。だから今鳴らす音だけに集中すれば良い。数秒前(過去)のミスは忘れて、数秒後(未来)の難所も考えず、ただ「今」の音だけを懸命に鳴らすこと。その「今」の連続が人生と言う作品に成って、いつか振り返った時、確かに何か(形のないもの)を残せたのだと解る。全ては消え行くものだからこそ、心の中に残る。最後は形なきものが勝利する。きっと音楽は、神様の発明だと思う。