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光を観る

梅雨が明け、今年もまた暑い夏がやって来ました。この時期の地鎮祭は(当然)炎天下や台風のケースがあるのですが、幸いここ最近の地鎮祭では、祭儀の開始と同時に、(炎天下にも関わらず)涼しい風が吹き始め、閑静な住宅街の中で小鳥の鳴き声が響き渡ったり、朝方からの雨が止んで、急に晴れ間が広がったりと、まさに「天の気」を感じさせるような(静かなる)経験をさせていただきました。天地(あめつち)の偉大さとは、決して、遠い山々や海や森だけに在るのではなく、この都会の日々の生活の中にも在るのだと、あらためて実感します。「天の気」と「地の気」を肌で感じられる瞬間が、いつも、ここに、在ります。
確かに地鎮祭には儀式(=形式)と云う面もあると思います。けれども、その土地の神様に対して、心を込めて御挨拶を行う「礼の精神」と知れば、実はとても大切な行為であることが解かります。地鎮祭の最中に感じられる日の光、雨の音、動く雲、そよぐ風、鳥や虫の声、街の喧騒、車の音、子ども達の声の中には、何か普段とは違う意味合いを感じます(まるで誰かの声の様です)。
建設業とはまさに「礼」に始まる仕事です。この無為自然な土(地球)の上に、人為的な創造物を建てさせていただくに当たり、「礼」を尽くす。その思いをもって建設作業を行うこと自体が(ある種の)「神事」ではないかとすら感じます。あらためて、お客様のお蔭で地鎮祭という場を経験させていただけることに、心から深く感謝をいたします。
このようにして考えて見ると、建設業とはまさに「人を造る仕事」であると、意を強くするのです。確かな技術と共に、「礼の精神」の宿る人を育てること。とても地道であり、土(泥)まみれになる仕事ですが、(だからこそ)その中に「光を観る」ことが出来ます。日々、炎天下(あるいは極寒)の中で、静かに、コツコツと、建物を造り続ける人々の中で放射する美しい光を・・・。日々の暮らしや仕事中に存在する「観光」が、今ここに在ります。
丸二では毎年、安全衛生大会を行っていますが、その際には、優秀な協力会社の表彰と共に、素晴らしい職人の方々への表彰も行っています。光を当てれば反射する。その光は(更に)土や建物へと放射される。全ては「礼」の文化であり、古き良き日本人の心の記憶なのでしょう。日本の町工場や日本の建設現場には、今も大和(ヤマト)の魂が息づいていると感じます。この大切な文化を守って行くことも、私たち建設会社の役割なのでしょう。
さて最近、古い日本の映画を観ることがあるのですが、その中での私のお気に入りの監督は、溝口健二です。日本映画と云えば、普通は黒澤明あるいは小津安二郎が有名ですが、私の場合は溝口健二、次に成瀬巳喜男です。もちろん鑑賞した作品の本数がまだ少ないので、また変わっていくかも知れませんが・・・。けれども、溝口健二の作品の中にある独特の空気感は、古来の日本人が持つ霊性、幻想性、ナイーブな精神性を感じさせるものであり、常に人間を俯瞰する目と超越した視線を感じさせます。
私が観たのは「雨月物語(1953)」「山椒大夫(1954)」「近松物語(1954)」「赤線地帯(1956)」の(戦後に撮られた)4本で、これから観る予定の作品は、「祇園の姉妹(1936)」「残菊物語(1939)」という戦前から戦時中に掛けての作品です。ちょうどその時代のドイツやイタリアでは、大指揮者トスカニーニやフルトヴェングラーが歴史的な録音を残しています。この最も苦しく、最も悲惨な時代の中にて、後世に残る大芸術が生まれていたことを思うと、あらためて「文化」とは不思議なものだと感じます。
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溝口健二の作品には、湖や海、そして舟が出て来ます。その幻想的な美しさの背後に横たわる恐ろしさは、日本人の持つ神秘性と結びついています。理屈や論理だけでは決して分からない「目には見えない世界」の映像化。誰の心の中にも宿っているであろう(美しくも儚い)光の粒を、動くフィルムに念写したかの様な異様なる映像美です。その光の粒が1つの固まりと成って、静かな湖面を移動する舟に乗って、ゆっくりと霧の中へと進んで行く・・・。これが「生きる」ということなのでしょうか。黒澤明監督の映画「生きる」は、「動」の物語でしたが、溝口健二の作品は、「静」の物語であり、人間の根源的な「生死」の物語が「静止(=微速前進)」している世界の様に写ります。永遠に湖面を移動し続ける舟に乗って、私たちは生きているのかも知れません。
人は、目には見えない「光」を心の目で「観」て、それを作品に投影しようとします。音楽も、映画も、そして建築も・・・。もしそうであるならば、「光を観る」ことのできる人を造ることが一番大切なことなのでしょう。丸二は「人を造る建設会社」と成り、この日々の暮らしの中に、たくさんの光を集めた建物を造り続けたいと思います。日の光と土と雨に感謝をして・・・。ありがとうございます。