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村上春樹氏のエルサレム・スピーチ

村上春樹氏の「エルサレム賞」スピーチ全文を読みました。ニュース等では、「高くて、固い壁があり、それにぶつかって壊れる卵があるとしたら、私は常に卵側に立つ」という部分のみが紹介されていましたが、全文はかなり長く、一言で簡単に評論できるようなレベルではないと感じました。この比喩については・・・「壁」とは、爆弾、戦車、ロケット弾、白リン弾であり、「卵」とは、これらによって押しつぶされ、焼かれ、銃撃を受ける非武装の市民たちのことと、村上氏自身が説明しています。
私は、かなりの衝撃を受けました。今、この時期に、このような表現を、しかもエルサレムの地で、公式にスピーチすることのできる日本人がいたとは・・・。イスラエルとパレスチナの問題は、様々な歴史、宗教、闇の権力等が入り乱れて起きている(であろう)ことで、簡単に白黒付けられない状況が今後も続いていくと思います。そして、誰もがその状況を解決できるとは思っていません。とにかく、怖い。
そのような中で、ある種の危険を伴いながらも、何かしらの使命感を持って、実際に足を踏み入れ、本当のことを話す・・・。その勇気ある行動に、心から拍手を送りたい思います。村上春樹氏の本が好きだからではありませんが、やはり何か人とは違うものを持った人だと思っていたので、腑に落ちました。もちろん、これくらいで戦争が終わることは無いでしょう。でもだからと言って、無関心でいてはならないというメッセージではないでしょうか。そして、このスピーチの最後の方に、こうあります。
「私たちは、国籍、人種を超越した人間であり、個々の存在なのです。『システム』と言われる堅固な壁に直面している壊れやすい卵なのです。どこからみても、勝ち目はみえてきません。壁はあまりに高く、強固で、冷たい存在です。もし、私たちに勝利への希望がみえることがあるとしたら、私たち自身や他者の独自性やかけがえのなさを、さらに魂を互いに交わらせることで得ることのできる温かみを強く信じることから生じるものでなければならないでしょう。」
「温かみ」とは、とても優しく柔らかい言葉ですが、すべてを解凍するだけの力があると思います。政治でも、経済でも、この「温かみ」を犠牲にしすぎた結果が今なのではないでしょうか。この「温かみ」を理解しえない社会が、だんだんと壊れていくことが、今の経済状況であるとしたら、その未来は決して暗くは無いはずです。この流れの意味を、本質を理解して、「温かみ」を基盤とした政治や経済やビジネス、そして生き方に回帰していくことで、全体平和への方向が見えてくるのでしょう。小説家も、政治家も、経営者も、すべての人々も、それぞれの役割の中で、使命を果たし、「温かみ」の実現に向かっていく時代になったと思います。