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その日のまえに

昨年、直木賞作家・重松清氏のベストセラー小説「その日のまえに」を大林宣彦監督が映画化しましたが、そのDVDを観ながら、いろいろなことを考えます。「その日」とは、つまり「人生最後の日」であり、すべての人にいつか必ずやってくる日です。「その日」をどのように迎えるかという意味合いにおいて、「余命わずか」と宣告された人ほど、その日までの人生を最も真剣に生き抜く者はいないのでしょう。本当は、すべての人がそれぞれの「その日」に向かって真剣に生き抜かなければならないのに・・・。
もちろん、これは小説であり、映画ではありますが、現実に多くの人々の経験の総和でもあります。人生をより良く生きてこそ、真剣に生き抜いてこそ、本当の幸福が得られるとするならば、私たちも、この映画の主人公「とし子」と同様に、いつも笑顔で、最善を生きていかなければならないのではと反省するのみです。
実はこの映画、確かに重松清氏の同名小説が原作で、いくつかの連作短編をうまく組み合わせながら、ストーリーも忠実を保っているのですが、実際は(原作の中でほんの少しだけ登場する)宮澤賢治の「永訣の朝」という詩の世界観の方こそが、真の主題になっているように感じます。故に、原作のイメージとの違和感は強く、評価が大きく分かれるのも無理はありません。ただ、私としては、これほどまでに宮澤賢治の宇宙観と現代社会における日常とが見事に(かつ摩訶不思議に)ブレンドされた作品を見たことが無く、あまりにも深い感動を覚えてしまうのです。
現在の世の中は、急速に変化を遂げながらも、新しい目標として「家族愛」あるいは「人類愛」へと再設定したように感じます。そういう背景に中で宮澤賢治の世界観は、日本における未来像のひとつの雛形になるのかもしれません。そういう時代性の中で、このような一風変わった(決してマスコミには取り上げられない)作品がひっそりと生まれたことに、何か面白さを感じます。
このDVDには大林宣彦監督のインタビューが入っていて、なかなか見ごたえがありましたが、その中で面白い話がありました。米国で「9.11同時多発テロ」が起きた後、映画監督のジョージ・ルーカスが「私は、スターウォーズを作るべきではなかった。スターピースを作るべきだった・・・」という心情を告白し、その後、自宅の庭の小さな虫や植物の映像を撮り始めた・・・というお話。つまり、イメージは現実化するということです。
「スターウォーズ(宇宙戦争)」のイメージが世界中の人々の意識に刷り込まれれば、現実社会でもテロや戦争として現実化する。逆に「スターピース(宇宙平和)」のイメージが世界中の人々の意識に刷り込まれれば、現実社会でも愛・平和として現実化する。こういうことだと思います。いよいよ、時代の逆転現象が始まりそうです。
建築の世界も、「そもそも住まいとは何なのか」とい問いから再スタートしなければならない時期に来ています。住まいとは、住む人の「健康」「安全」「幸福」を護る社(やしろ)であると、私は思っています。住まいによって、人の人生も変化していくと思います。そういう「人生との関わり合い」としての住まいを考えていくことで、これからの建築の未来像は築けるのではないでしょうか。世の中が変わり、建築も変われば、人生も変わる。きっと、宮澤賢治の言う「全体幸福」の道へと。とても、いいことではないでしょうか。