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冨田勲~宮澤賢治~3.11

昨夜のNHK・ETV特集で、先日ブログで紹介した冨田勲さんの「イーハトーブ交響曲」の特集が放映されました。タイトルは、「音で描く賢治の宇宙~冨田勲×初音ミク 異次元コラボ~」です。CDを買って以来、(毎日聴きながら)深い深い感動を味わっていたので、もちろん観ました。
冨田勲さんは言うまでもなく、世界のシンセサイザー音楽の開拓者(パイオニア)です。ドビュッシーの「月の光」やホルストの「惑星」等のクラシック音楽を、全てモーグ製のシンセサイザーで演奏するというトンデモナイことを始めました。今から約40年も前にです。それから電子楽器が生まれ、今では様々な音楽に当たり前のように使われています。でも当時は、「機械の音楽なんて邪道」と言われ、冷たい評価を受けていました。それでも自分自身の夢と信念を貫き、こうして時代の先駆者と成ったのです。
番組の中で、宮澤賢治に対する冨田勲さんの思いを聴くと、やはり戦争体験や逆境を生きて来た自身の人生が、その根底にあるように感じました。そして冨田さんが子どもの頃に読んだり、映画で観た宮澤賢治の異次元世界が、それから70年経った今でも、心の中に存在してしたということです。
今回の「イーハトーヴ交響曲」は、シンセサイザーでは無く、フルオーケストラと合唱によるシンフォニーです。そして、競演する歌手が、ヴァーチャルシンガー「初音ミク」。存在しない「人」ですね。その競演作業はとても大変だったようです。実際の演奏は、当然テンポが揺らぎますから、指揮者の棒に合わせなければいけません。初音ミクも同じです。普通なら、すでに録音されている「初音ミク」のテンポにオーケストラが合わすところですが、それでは意味が無い。その時、そこで、初めて「初音ミク」が、一緒に歌うことが重要だったのです。そのような「こだわり」を持って、いろいろな新技術を駆使して、初演の成功と成りました。
宮澤賢治の作品は、何か不思議な異空間を感じます。とても身近で日常の世界を描いているのにも関わらず、その向こう側に4次元世界が横たわっています。その異次元空間を行ったり来たりする存在として「初音ミク」が参加したのでしょう。このような全く新しい発想や挑戦が出来るところが、やはり「パイオニア」なのですね。今の若い世代よりも、よっぽど頭が柔らかくて、勇気があります。
また、私が大好きな詩「雨ニモマケズ」も歌われました。冨田勲さんの意識には、やはり.3.11のことがあったそうです。宮澤賢治のイーハトーヴ(理想郷)とは東北岩手です。その東北の人々への思いこそが、この曲を完成させたのではないでしょうか。「銀河鉄道の夜」は、死者を天上まで運ぶ列車でした。川で溺れた友達を救うために、水に飛び込んで死んだカンパネルラを乗せて、銀河鉄道は宇宙を昇って行きます。それは3.11で亡くなった多くの東北の方々を連想します。世のため人のために、自分自身を犠牲にして命を捧げた全ての人への感謝の祈りです。この「イーハトーヴ交響曲」では、「銀河鉄道の夜」のクライマックスで、子どもたちの合唱が「カンパネルラー!!」と叫びます。それは、今ここで生きている私たちから、あの震災で亡くなった方々への感謝の呼び声と判ります。
「銀河鉄道の夜」の主人公は、カンパネルラの親友のジョバンニです。ジョバンニは、眠っている間、銀河鉄道に乗って、カンパネルラと旅をします。その時ジョバンニは、最も天上に近い駅までの切符を手にしていました。これは一体どういう意味なのでしょうか。ジョバンニは、病弱な母親のために、毎日ミルクを買いに行きます。学校へ行きながら、印刷所で働いています。遠い海で働いている父親の職業のことで、友達からイジメられています。そのジョバンニが、一番良いところまで行ける切符を手にしていました・・・。
イジメが問題に成っている今こそ、あらためて宮澤賢治を理解する必要があると思います。生きることの意味をもう一度、真剣に考える時です。東北で3.11が起き、私たちは気づかされました。だから残された私たちは「反応」しなければいけません。「雨ニモマケズ」の精神は、単なる辛抱の話ではなく、真の「さいわい」への切符でないのかと。その切符を私たち人間は、すでに持っているのかもしれない。だからこそ、今の日常に感謝して生きて行くことが大切だと・・・。
番組のインタヴューの最後で、3.11で亡くなった東北の方々への思いを語る冨田勲さんが、涙をぐっと堪えているのが印象的でした。