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意匠と構造

あらゆる物事には、必ず二面性(表と裏、陰と陽)があると言われています。例えば、WBCで盛り上がっている野球には、「攻撃と守備」という二つの要素がありますし、自然界にも、「昼と夜」や「天と地」等、相反する対象がバランスよく存在しています。会社も、「社長と社員」という二つの立場によって形づくられていますし、「思考と行動」という二つの要素によって、結果が出ます。株価のチャートも、「上昇と下降」が交互にやって来ます。
株価と言えば、麻生首相が、「株屋ってのは何となく信用されていない」などと発言したらしいですが、以前、株屋の一員だった私としては、とても不快です。株式の売買は、現在の資本主義の根本として、無くてはならない基本システムであり、これを否定するのは、どうかなと。様々な会社の株式をいつでも自由に売買できる取引市場があるからこそ、現在の信用経済は成り立っています。昨今の経済不況を招いたのは、株ではなく(もちろん株屋でもなく)、自由な市場に任せずに国が株式市場に介入したり、あるいは頭のいい人たちが、デリバティブやサブ・プライムローン等の複雑怪奇な金融工学商品を開発したからではないでしょうか。
さて、二面性に戻りますが、株も日々、陰線と陽線を出しながら、動いています。これが自然です。私が好きなクラシック音楽についても、この二面性があると思います。現在、様々なジャンルの音楽があって、とても素晴らしい曲もたくさんありますが、果たしてこれらが10年後、100年後まで残っているでしょうか。仮に残ったとしても、「懐かしい、思い出の・・・」という枕詞がついているのではないか。数百年後も、新しい録音が出るような曲は、本当に少ないと思います。
そう思うと、すでに数百年の間、演奏され、新しい録音が出ているクラシック音楽には、何か特別な要素があるのではないかと考えられます。その秘密は、曲の設計にあるのではないか。ところで建築の場合、設計は大きく二つに分かれます。「意匠設計と構造設計」です。意匠設計の方は、見た目のデザイン、配置、形状等ですから、ほとんどの方は理解できますし、気にします。でも、実際に施工をしていくためには、構造設計が無いと不可能です。姉歯事件は、この構造設計を偽装したわけですね。
建築は、この「意匠設計と構造設計」という二面性の両方を整えて、美しい建物を長く安全に持たせます。音楽も実はそうではないのかと。感動するメロディーやかっこいいフレーズ、素晴らしいハーモニー等の意匠設計が整っていても、音楽の構造設計に確固たる計算根拠やセオリーが無いと、一時的にヒットしても、長く持たないのではないかと。クラシック音楽の場合、良いか悪いかは別として、非常に難しい理屈や理論的な裏付け、セオリー、形式、様式の中で作曲されています(私にはよく分かりませんが・・・)。作曲するには、そういう理論や手法を知らないと不可能みたいです。
仮に、いいメロディーが閃いたとしても、それをどのように展開したり、反復、発展させていくかの「型」を知らないと。バッハの書いた曲の楽譜は、幾何学模様としても、見事なものらしいです。そこには何か、構造美のようなものがあるのでしょう。意匠は一般の人でも分かりやすいですが、構造は分かりにくい。そこが難しいところです。
さて、政治の中の政策にも同じようなことが言えないでしょうか。誰もが分かる意匠をいくら魅力的にしても、本当に構造設計として大丈夫なのか。例えば、今回の定額給付金についても、もらう側としては、もちろん嬉しいに決まっていますが、果たして政策としての構造設計上、本当に有効なのかどうか。メロディーラインはいいが、楽曲として成り立っているのか。そういうプロ的な視点があっての政策なのか。国民の多くが、この定額給付金に疑問符を出したのは、こういうことだったと思います。二面性の裏の部分こそが、プロフェショナルの出番ですし、本当に長く本物として残る部分だと思います。
経営の場合は、「技術と理念」ということになると思います。目に見える技術や商品に素晴らしい付加価値を持たせると同時に、その商品・技術を開発・採用した根底に流れている理念・考え方が一体どういうものなのか。この両方を磨き上げていくことが、商品や企業を長く継続させるポイントだと思います。私たちも、あらためて両面を見直して行きたいと思います。